読んだ本

感想・興味を引くところ

道路行政というか我が国おける交通に関する不作為について述べている。

運輸省国交省)には,自動車交通局と並んで鉄道局があった(ある)。自動車交通部がモータリゼーションの発展に邁進したのは,組織の論理として当然であろうが(だからといってそれが合理化されるのではもちろんない),少なくとも運輸行政全体を見渡すべき立場にいる審議官以上の官僚たちは,より大局的な視野をもつ責務があったはずである。国民の将来的な生活の安定を,ことに高齢化社会におけるそれを考えれば,道路とマイカー利用によって国民の足を確保することではなく,どんなに老いても安心して,いつでも,かつ低廉な費用で利用できる公共交通が不可欠なことは,冷静に考えてみれば明らかなことである。にもかかわらず,なぜ国民の「交」(今,衣食住は「衣食住交」として語られる傾向が強い)の確保を任務とする運輸官僚が,そんなことも満足に考えずに自動車交通の発展のみを考え,鉄道を軽視してしてきたのか。
自動車交通や自動車輸送への依存,鉄道の軽視はそれ自体作為であろうが,しかし顕著なモータリゼーションの進行,どれと同時に進んだ鉄道の衰退を眼のあたりにしつつ,この深刻な事実を漫然と放置した不作為の責任を,運輸官僚は問われるべきであろう。
p74-75