読んだ本

変体少女文字の研究 (講談社文庫)

変体少女文字の研究 (講談社文庫)

目次

まえがき
序章
第1章 魔女狩り
第2章 秘めごとの記録
第3章 少女たちの古文書
第4章 濃厚汚染
第5章 人事課長の庶子認知
第6章 文学商人の元気
第7章 筆箱の中のパラダイス
第8章 横時代の奔流
終章

感想&引用メモ

漢時代に輸入されたため漢字と言うのは,同じころに輸入された中国医学と漢方と呼ぶのと同じである。漢字からやがて片仮名と平仮名が生まれるが,いずれも記号の抽象化の歩みということができる。
変体少女文字に併記される絵文字の多用は,こういった具象から抽象への文字の進化から見れば,その反対のベクトルをもつ退化ということができる。少女たちの書く文章の幼稚性を一種の退行現象であるとすれば,変体少女文字も文字の退行現象ということができる。
もちろん,少女たちは,そんなことは意識していない。好きなように書くだけである。p77

現在では,まさにケータイの絵文字なんかは退行のなれの果てなんでしょうか?

「つまり,時速100キロ草稿でドライバーにモノが見えるかが,誰もわからなかった。」
参考になったのは,名古屋大学工学部教授・鈴村明が出した動体視力論だった。正常視力の人でも時速100キロ走行では視力が半分になる,という実験に基づく理論だった。結局この理論が採用されて,視力0.5でも読める標識作りが始まった。
時速100キロで走行中,「京都」という標識を見てブレーキを踏み時速40キロに減速して出口に入るには,標識の文字が120メートル手前で読めなければならないことが,まずわった。文字の大きさは,ドイツのアウトバーンに習って高さ50センチに決めた。字体デザインにあたっては,どんな文字が使われることになるかを調べることから手をつけた。
(中略)
標識の地は緑,文字は白,夜昼同じように見える配色である。こうしてようやく完成した文字だが,華奢で力強さがないと評価された。
「力強さのある字は,筆で書いた文字のようにふところが狭いんです」
”ふところ”というのは文字を構成する円弧などのふくらんでいる部分のことである。「ところが高速道路標識では,ふところを狭くすると白く滲んで文字が読みにくくなるために,あえて広くしたんです,昼間見ると華奢で力がないように見えるのはそのためです。確かに文字は丸みを帯び,力強さがありませんが,形の美しさをもった文字と,どんなときでも読める文字とは別だということです。
この文字のデザインは「自動車道標識の様式に定める省令」(運輸省令・建設省令)で法文化された。これは,法律になった「デザイン」としては初めてのものだったと言われている。
細く華奢で力がなく,ふところの広い高速道路の文字。これも変体少女文字と共通する字ということができよう。
p171-173