読んだ本

太陽の季節 (新潮文庫)

太陽の季節 (新潮文庫)

感想・興味をひいた所

頷いて香をつまみながら彼は英子の写真を見詰めた。笑顔の下,その挑むような眼差しに彼は今始めて知ったのだ。これは英子の彼に対する一番残酷な復讐ではなかったか,彼女は死ぬことによって,竜哉の一番好きだった,いくら叩いても壊れぬ玩具を永久に奪ったのだ。つまんだ香を落とすと,彼は思わず香炉を握りしめていきなり写真に叩きつけた。
「馬鹿野郎っ!」
額はけたたましい音をたてて滅茶苦茶に壊れた。花籠が将棋倒しに転げ落ちた。同様する人々に,彼は険しい眼を向けて振り返った。
「貴方達には何もわかりゃしないんだ」
そのまま出て行く竜哉の眼に,幸子は始めて涙を見た。竜哉はそんな自分が歯ぎしりする程癪だった。 p74

石原慎太郎の小説を初めて読みましたが,発表当時の作品としてはものすごく斬新であったと思います。