読んだ本

重大事件に学ぶ「危機管理」

重大事件に学ぶ「危機管理」

感想・興味をひいた所

改めて本書のテーマに戻ると,いま挙げてきた数々の危機に対し私たちはどう対処していけばいいのか,である。
これを考える際には,格好のキーワードがある。
それは,1つに「公助」「互助」「自助」の視点である。
公助は,何らかの危機に見舞われたときに,国家あるいは政府レベルの危機管理体制または治安体制によって解決する方法ということになる。日本にはまだ水と安全はタダという神話があったことは,公助が万全だったとまでは言わないが,少なくとも現在よりは機能していたわけだ。
互助は公助よりも1回り小さなスケールで,私などの世代だと「隣組」というのがいちばんピンとくるのだか,いまならマンションの住民全体や町内会で助け合って危機管理をする形である。
自助は文字通り自分自身は自分で守るという,最もプリミティブで最も重要な危機管理の方法だ。自分と自分の家族ぐらいは,やはり自分で守る覚悟が必要である。p33-34

危機管理の基本としてどこにでも通用しそうな考え方だと思います。

八雲工場で作っていた脱脂粉乳に連鎖状球菌が入っていて,大騒ぎになった。
そのとき雪印乳業の社長は,佐藤貢さんという方である。
この人のとった行動が実に鮮やかだった。ただちに操業停止,製品の回収,そして公然たる謝罪をする。さらに社員たちには,次のような名訓辞をした。
「今回の事件は雪印乳業の輝ける歴史に拭い難い汚点を残した。信用を築くには長年の歳月を要するも,それを失するのは一瞬である。私も先頭に立って謝るから,社員はそれぞれ担当方面に対し誠心誠意謝れ。そして1日も早く信用を回復せよ」
1000人を超える被害者も,これにみんな納得した。被害者数はそれ以上に増えることなく,損害賠償も大したことなくすんだ。以来,佐藤貢さんのこの名訓辞は,そのまま雪印乳業の社訓となって残ったという。p72

この事件の数十年後に会社がお取りつぶしなるような事件が起きたわけですが,この訓辞は時代遅れをいうことで残念ながら外されていたそうです。

伊豆大島の大噴火のときの話題)
中曽根総理も執務室に到着された。藤森官房副長官が後藤田長官に報告する。
「長官,国土庁は夕刻より19関係省庁の担当課長を防災局に集めまして,長い長い会議に入っております。佐々君や私が名を名乗って電話を入れても『会議中です』の一点張りで,らちがあきません。国土庁には任せておけない。これは”伴走”いたしましょう」
これを聞いた後藤田長官,ついに怒った。
「何の会議をやっておるのか?議題は何か?すぐ聞け!」
制度上は,情報は国土庁長官が総理に報告することになっており,官房長官や副長官には報告されない。そこで,何の会議をやっているのか裏から探ってみた。
すると驚いたことに,第一の議題は「災害対策本部の名称」。大島災害対策本部とするか,三原山噴火対策本部にするか…,だそうだ。
そして第二の議題。なんと「元号をつかうか,西暦をつかうか」つまり昭和61年とするか,西暦1986年とするか,だという。さすがにあきれて「何でそんなバカなことを!」と聞くと「昭和天皇がご高齢だから,万が一,元号が変わるようなことにならないとも限らない。しかし,西暦は前例がない」と議論しているのだと答え。(中略)
こんな情報であっても,とにかく後藤田長官に報告しなければならない。
会議嫌いの後藤田長官,一瞬絶句した。しかし,そこから早かった。
「そんなことをしていると,13000人の命が危ない。よし,内閣でやろう。協定もへったくれもない。安保室長,佐々君,キミ,やれ」
そらきた!
中曽根総理もすかさず,「オレが責任を負う,すぐにやりなさい」と発言する。
「総理の命令でございますね」
私は念を押す。ようし,それならできる。
私は何の権限も指揮権もないが,内閣総理大臣の特命と内閣法第12条による「官房長官の調整権」が行使できるとなれば大丈夫。何でもやれるのだ。前例はなかった。しかし,これ以降,この形が伝家の宝刀となる。p94-95

手際のいい避難だったのは子供の時の記憶として残ってますが,こんな裏話があったとは思いませんでした。後藤田長官の素早い決断と,佐々さん,平沢さんの情報収集能力の高さが脱出成功の秘訣だったのでしょう。
これが阪神大震災の時にも機能していればよかったのかもしれませんが,そのときの政権は,与党の批判ばかりを繰り返していた社会党が政権をとったとき。残念でなりません。ちなみに国土庁の会議は11時間続いたそうです。

この手のネタは数多く書かれています。

後藤田さんは,
?頭が切れて仕事ができる。
?能力主義
?度胸が据わっている
?私欲が強くない
そして危機にめっぽう強いが
?平時の能吏にもなれる,といったところか。
(中略)
先の5点に追加し?情がある,と記しておくことにする。

ここに出てくる方は警察官僚出身の方ばかりですが,いろんなことを放っておくことの出来ない水戸黄門のような人ですね。

  1. 人財=文字通り会社の宝ともなる社員で,めったにいない。いたら大切に。
  2. 人材=使いようによっては役に立つし,使い方を誤ると役にたってくれない。大多数はここに属する。
  3. 人在=いるだけ。毒にもならない代わりに,薬にもなりにくい。
  4. 人罪=いると他の社員の足を引っ張ったり,課,ひいては会社に不利益をもたらしかねない。p250

自戒を込めて引用しました。